その処刑は、陰鬱な小雨が降りしきる村の広場で行われた。  彼が自ら断罪の刃を握るのは、ファルナハトの掟を破った者たちの中の、ほんの一握りの数にすぎなかったにもかかわらず、村人たちは彼をファルナハトの死刑執行人≠ニ呼び、忌み嫌った。彼の部下を除けばこの処刑を見ようとする者は皆無であり、その災いが自らに降りかかるのを恐れて家に閉じこもり、窓すらも固く閉ざしていた。  彼は剣を手にして前へ歩き、立会人の前でこれから処刑を行う旨を宣言すると、縛められている三人の男たちの罪状を述べた。彼等の罪は略奪と暴力、そして殺人だった。彼が剣を握りかえて振り返った時、その黒い瞳に表れているものは、ただひとつの感情のみだった。最初の血しぶきが上がってからそれが二度繰り返された後も、彼のその冷然とした表情はまったく変わらなかった。  やがて、彼の銀糸の髪を伝い落ちた雨が、静かにその血濡れた刃を清めはじめた。 「――ファルナハトでまた村が襲われたようだな」  デルフィンデル王ガーランドは、自分の執務室で側近の一人であるアストレル侯オウラス・ディラガートリィの報告を受けていた。デルフィンデルはロスニア大陸の北方にあるアスティニア三国と呼ばれる三つの王国のうち、最も広大な領土と勢力とを有している。ガーランド王は三十九歳だったが、肩まである黒髪と整った容貌のせいで実際よりかなり若く見える。三国の間で結ばれている同盟がいまだ平和的に保たれているのも、この王の力によるものが大きかった。 「残念ながら、そのようです」アストレル侯は報告書に目を落としながら言った。「家々が焼かれ、死者も出ています」  ガーランドは目を閉じ、しばらく思案していた。ファルナハトとは、他の二国――バルディアとランゴア――との国境が最も近く隣接する地方にある、広大な地域のことである。この地は先王オデイル以前の代から王領であり、現在はガーランド自身の領地でもあったが、これまで長く盗賊らによって支配され続けてきたために、実質的な領主というものが存在しない。この一帯を事実上治めている盗賊の首領と協力関係を持つことで、ガーランドはその問題を解決していた。残る課題は、ファルナハトと境を接するバルディアに存在し、無法地帯と化しているラバルドだった。 「グレイディル――奴の仕業だな?」  王の問いかけに、アストレル侯は黙ってうなずいた。グレイディルはラバルド一帯を手中にしている盗賊の首領で、その残忍なやり口で恐れられている。死んだ父親の大グレイディルと区別するために小グレイディルと呼ばれることもある。さらにやっかいなのは、ラバルドはバルディア王アルサンの側近にして宰相であり、バルディアの実権を掌握するラバルド侯レナード・バルティスの領地であるということだった。グレイディルはラバルド侯の庇護のもとにこれまでもしばしばデルフィンデルに侵入して悪行の限りを尽くしてきたが、それを食い止めているのがいわば緩衝ともいうべきファルナハトの盗賊たちという存在だった。 「――で、彼はどうだ?」ガーランドは閉じていた目を開き、当然のようにその質問を口にした。 「彼は迅速に行動しています」  王の言う彼≠ニはファルナハトの盗賊の首領のことだった。長くその地位にあったグールドンという男の死後その後を継いだ若者で、銀の獅子≠ニいう名で呼ばれていること以外、彼についてわかっていることはほとんどない。